Faint love 大原 藍へ この手紙を見てるって事は、きっと俺は何らかの理由でこの世にいないんだと思う。 お前を残して先立つ俺を、どうか許して欲しい。ごめんな、藍。 でも覚えていて欲しい。俺は藍の重荷にはなりたくないって事。 藍が心から愛する人ができたのなら、迷わず進んでほしい。 藍の人生は誰のモノでもない。藍、お前自身のモノなんだから。 辛いって思うときもある。泣きたいって思うときもある。 そんな時くらいは、俺を思い出してほしい。 これじゃあ矛盾してるよな。だけど、そんな時こそ俺を思い出してほしい。 藍が辛い顔してるの、見たくないんだ。それに他の奴じゃ泣き顔見せられないだろ? 藍は結構プライド高いから、俺以外の奴に泣き顔を見せた事ないだろ? 俺はいつでも藍の傍に居るから、悲しくなったりしたら名前、呼んでくれよ。俺、飛んでいくからさ。 ってこれじゃ、忘れようにも忘れられないな。ごめん、藍。 これ以上書いちまうと、醜態を晒しちまいそうだから止めるわ。 でも、心から言いたい言葉。これだけは言わせて欲しい。 藍、お前と出会えて本当に良かった。生涯でたった一人、心から愛した女だ。 藍愛してるよ、ずっと愛してる。                                        高居 悟 「…こんな手紙、残されちゃ、忘れらんないに決まってるじゃん…」 この手紙を手に取る三日前、高居悟はこの世を去った。死亡の原因は大型トラック運転手の飲酒運転による、事故死。 トラックに撥ねられた時、悟は奇跡的に息をしていたらしい。その時に運ばれていれば、悟は生きていた。そう医者は言う。 だけど悟が病院に運ばれたのはそれから一時間以上も経過した後だった。たまたま通行者が発見したらしい。 元々その道は交通量が少なく、夜になれば静まりかえる位。なぜ悟が夜中に通っていたのかは分からない。 ドライバーが発見し、通報した時にはもう息がなかったという。一時間もの間、悟は痛みと孤独のなか戦っていたのだろう。 携帯も何処かに飛び、助けを呼ぶこともできず、ただ待っていることしかできなかったのだろう。 あまりにも状態がヒドイらしく私は、悟の最後を見ていない。悟のお母さんの絶叫からして、そうとうヒドイのだろう。 その声を背に私は一人、病院の中で悟の名前を呼び叫んだ。 「悟!悟ーっ!!」 名を呼んでも、もう返事を返してはくれない人。笑う顔も怒る顔も悲しむ顔も、全て見ることができなくなった人。 同じように感じ、笑い過ごしてきた人。当たり前にいた人がいない、そんな事考えた事もなかった。 そんな事、絶対ありえないと思っていたのに。なのにーっ、彼の命は無残にも散ってしまった。 気付けば私はまた、涙を流していた。感慨もなく流れ落ちる涙。ポタポタと手紙の上に落ちていく涙。 どれだけ涙を流しても、この涙は枯れないだろう。悟の部屋は今日も、愛用していた香水の香りが漂う。 まるでまだ悟が生きているかのように、私を包み込んでいく。手紙はもう涙で滲み、読めなくなっていた。 「私、悲しんでるよ?名前呼べば飛んで来てくれるんでしょ?早く…っ、早く来てよぉ !還ってきてよぉ!!」 そんなの無理なのは分かってる。来れないことなんて分かってる。だけど、分かっていても傍に居てほしいよ… もっと、もっと悟の温かさに触れていたいよ… 「悟…っ、悟…」 手紙に目を落とす。そこにはまた違う文字が出ていた。透き通ったような、文字が光を発しているかのような。 光と文字が、手紙の残った行数を埋めていく。不思議なことに、その光景に恐怖は感じなかった。 だって、この文字は紛れもなく悟の筆跡だったから。 泣くなよ藍。泣かないでくれよ…お前らしくないぞ?いつものお前らしくない。 確かに俺はもう存在しないけど。けど、藍の心にはいるじゃないか。 沢山の思い出のなかに俺がさ。 だから泣き顔はやめろよ?化粧が崩れるぜ? 間違いない、この相手は悟。私は溢れた涙を拭き、何時ものように言った。 「馬鹿…っ、悟の馬鹿、濃いメイクはしてないって言ってんじゃん…っ」 さらさらと光が文字を書いていく。文字の書き方も丸っこい文字も、悟の筆跡。あぁ、すぐ近くに悟がいるんだ。 そう思うと、悟の温かさに触れられた気がした。 そう、その意気だ。やっぱ、それがお前らしい。 藍は藍らしく居てくれ。俺の還る場所がなくなっちまうだろ? だからこれが最後。最後の誕生日プレゼント、受け取ってくれ、な。 消えていく光に、突然銀色のリングが手紙の上に落ちる。 小さなダイアがはまったシンプルなデザインのリングは、左薬指にぴったりのサイズ。 それにこのデザインはまえに何度か見たことがある。そう、あれは確か… 遊園地の帰りに寄ったショップで見たんだよ そう、遊園地でリングを落としたからって寄ってくれたショップだ。 あの頃は給料日前だからって言って、一番安いリングを買ってくれたあのショップ。 でもそれを知ってるのは私と、悟だけで。まさか、だけどそうじゃないと。 でも違うよ、だって悟はもう逝っちゃったんだもん。悟じゃない、そう悟はもう死んじゃったんだ。 そう自分の中で葛藤していると、誰かに抱き寄せられた。悟の香水の香りが体を強く包み、ポンと乗せられる手。 ギュとされているわけじゃないけど、体を包む優しい抱き締め方。 お前さ、このリング欲しがってたろ? そう、悟がお会計を済ましていた時にこのリングに私は一目惚れしたんだ。そっか、悟は知ってたんだ。 私がこれが欲しいって分かってたんだ… 俺、バイクに乗ってさ。そのリング買いに行ったんだよ すんげぇ欲しそうな顔、お前がしてたからさ あぁ、だからあんな人気のない道を通っていたんだ。あの道から、遊園地に行ったから。 だからなんだ… 文字を書く光がピタリと止まる。それと同時に抱きしめられていた感覚も消えていった。 やだ!逝かないで悟!もっと、もっと傍に居てよ… 「お前は弱い、だけど強いから。だから前に進めよ、もうお前の手を掴む事はできないけど。いつも見守ってるから」 声。悟の声がはっきりと耳に聞こえた。 FIN 雪姫より よんでて泣きそうになりました。(ぉぃ 本当に素敵な文で! 読んですぐにもって帰ってきましたよ! こんな文をフリーでもらえるとは… また、なにか配布していたらもらっていきたいなぁなんて思います(ぇ 二人の状況というか気持ちなどが良く分かってすごいです。 藍さんは辛いと思いますが…幸せになってほしいですしそうなると信じてます! きっとこの方は強く生きていける…!なんて、勝手な考えを…; 時には辛くなるときもあるのでしょうが、頑張っていってほしいです。 この素敵文を配布していた蒼兎様のサイトはこちら(同窓) おすすめなんで是非行ってみて下さいね! 雪姫より蒼兎様へ レイアウト変えちゃな…と思いそのままですが宜しかったですか…? あと、変な感想ですみません〜! 何か不都合等あれば、お気軽にどうぞ。出来る限りすぐ直しますので!